たはら眼科 淡路駅,東淀川区,アレルギー性結膜炎,目のかゆみ,ドライアイ 眼科

 

涙道内注入の詳細

 

少し堅い話ですが...涙道内注入を開発するにあたって。

涙道内注入によるアレルギー性結膜炎治療法を開発する経緯

<はじめに> 季節性アレルギー性結膜炎(花粉症に伴う結膜炎)の患者さんの多くは、春から夏にかけて毎年同じような時期に目のかゆみや、なみだ目,充血,異物感など激しい症状を自覚して眼科を受診されます。私たち眼科医は、毎年決まった時期に発症する患者さんに対しては、花粉が飛び始める以前から抗アレルギー剤を使い始めてもらって目の症状を軽く済ませる方法を指導します(これを初期療法といいます)。一方、花粉が盛んに飛ぶ時期に激しい目の症状が起こってしまった患者さんは、「眼科を受診すれば目のかゆみや涙の症状を速やかに治してもらえる」と期待しているはずです。しかし、これに応えられるような眼科の処置法はなく、薬物療法としてステロイド点眼を用いる他にありませんでした。しかし、ステロイド点眼には緑内障や感染を起こしやすくするなどの副作用あるため、投与には注意が必要です。 私は、季節性アレルギー性結膜炎の症状を速やかに改善させる新しい治療を考案するにあたって、患者さんが内眼角部(めがしら)の深部にある涙道あたりに強い掻痒を自覚することと、洗眼して花粉を流しても期待するほどに目の症状が改善しないことに注目しました。これらからアレルギー性結膜炎の目の症状の発現には、結膜そのもの以外に涙道が深く関与をしていると推測しました。   涙道: 涙が目から鼻の奥に抜ける通路

 

<作用のメカニズム> 涙道が鼻の奥につながる辺りに花粉が到達すると、まず鼻の粘膜で即時型のアレルギー反応が起こります。これによって放出されたヒスタミン等は、周辺の三叉神経の端に作用してかゆみの信号を脳に向かって伝えます。ところが、三叉神経の末端から分泌されるサブスタンスPと呼ばれる神経ペプチドの影響でヒスタミンの放出が連鎖反応を起こし、涙道から目の付近の三叉神経も興奮して、かゆみの信号を送り出してしまうのです。 結膜に付着した花粉もその場所でアレルギー反応を起こして目の症状を引き起こしますが、鼻には目よりもはるかに多い花粉が入ってきて粘膜に引っ掛かります。したがって、鼻での反応は強力です。鼻の粘膜から涙道と目に向かうアレルギー反応の連鎖を阻止するには、私は一連の反応の元になっている鼻涙管の開口部付近に抗アレルギー剤を注入する方法が最適と判断しました。    鼻涙管の開口部: 涙道の下端で、鼻の奥(鼻腔)につながる部分

 

<安全性と効果> 涙嚢や涙管の感染症の治療を目的に、涙道内に抗菌剤を注入する方法は古くから施されてきました。しかし、アレルギー性結膜炎の治療を目的として、抗アレルギー剤を涙道に直接投与する方法は、今日まで眼科の臨床で用いられたことがありませんでした。このため、安全性についてあらためて検討しました。涙道内注入に用いる薬剤は、点眼薬としてまた点鼻薬や内服薬としてもすでに動物や人体で有効性と安全性が確立されたものです。涙道に注入した薬剤が主に鼻粘膜と消化管で吸収される点に注目して安全な投与量を検討しました。具体的には点眼、点鼻、内服の各製剤での薬剤含有量から、それぞれの一回投与量を計算し、それらが鼻腔粘膜から吸収される場合と消化管で吸収される場合それぞれにおける安全な上限量を求めます。そして実際の投与量は、この安全範囲内で最も効果的な必要最小限の量を採用しました。これによって注入中も刺激が少なく、鼻の奥から喉に流れて飲み込んでも無害なものとなっています。    涙嚢、涙管:涙道を構成する一部の名称

<今後の課題> 抗アレルギー剤を涙道内に注入する新しい治療法は、季節性アレルギー性結膜炎の症状を速やかに軽減させることが出来て、しかも眼科外来で行うことが出来る安全な処置です。涙道内注入は、今日まで点眼や内服に頼ってきたアレルギー性結膜炎治療の、新たな手段として臨床上有益であると思います。一方で、涙道内注入の作用機序はまだまだ解らない部分もあり、今後、病理や免疫反応を詳細に検討する必要があります。同時に、いろいろな薬剤についても検討してアレルギー性結膜炎の症状改善の効果がより長期間続くよう改良したいと考えています。 なお、この涙道内注入による治療は対症療法であって、花粉症やアレルギー性結膜炎の根治療法でないことを付け加えさせていただきます。

この治療法の開発にあたり、ご協力をいただいた皆様に深く感謝いたします。